医学部入試相談会リポート 私立 医学部 2017年6月

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医学部入試相談会リポート (私立 医学部) 2017年6月

2017年6/18(日)に大阪ヒルトンプラザウェストで開催された医学部進学ガイダンス(朝日新聞社主催)に参加した各大学の入試動向につきレポートする。

大学 医学部入試相談会リポート

【東海大学】

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入試制度に大きな変更点はない。しかし去年の入試では、補欠繰り上げ者が例年より少なくなり、約10名程度だった。担当の方の説明によると、「合格通知が来ると、そのまま入学手続きに進む学生が増加している」という。また化学の難度が上がる一方、物理では今年も満点者が出たので、化学で点差がつきやすい結果となった。化学の得意な生徒にはやや有利な入試となったかもしれない。

近畿大学

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こちらも一般後期の日程が少し早まった程度で、入試制度自体に大きな変更点はなく、今年も去年までと同内容の入試を実施する。補欠合格者(「内定」として番号のみ通知する)は去年も例年並みの50名程度だった。補欠合格のラインは6割以上とのことである。

大阪医科大

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こちらは今年から入試日が大幅に前倒しとなり、前期一般試験が従来の2月中旬からかなり繰り上がり、1月28日の実施となる。理由は「国公立との併願をしやすくするため」とのことだが、その真意は不明である。

大阪医科大学は、関西私大のトップを「自認」する"非常に気位の高い"学校だが、従来国立二次試験日に関西私大の中ではもっとも近い入試日を設定してきた。入試日は、1月の大学入試センター試験に近い日に入試を実施する大学ほど偏差値が低くなる傾向があり、逆に国立二次に近い日の大学ほど偏差値が高くなるのが一般である(たとえば慶応大医学部は、私大医学部の中ではもっとも遅く、国立二次の直前を入試日に設定している)。それをあえて前期入試日を1月に実施することで、国立との併願はしやすくなるかもしれないが、一方で受験者層のレベルが変動する可能性もある

 

また、大阪医科大学では今年度から推薦入試を実施する。今のところ受験できるのは現役生のみだが、関西私大のトップと自認し、労せずして「優秀層」を確保してきたと思われる大阪医大も、近年は優秀な生徒をできるだけ早い時期に確保しようと入試改革に乗り出しているようである。またセンター利用後期も廃止する。

 

補欠合格者の合格最低点、補欠の人数等については「関係各者に迷惑がかかるため」一切非公開とのこと。これについてもいま一つ真意をはかりかねるが、ともかく補欠に関しては、大阪医大の場合は特に「あまり期待をしない方がよい」ということだろう。去年の入試では補欠の繰り上げ合格者はほとんど出なかったとのことであり、もしこれが事実であれば、やはり国立との併願者が減少したと考えられる。国立不合格組の生徒を「優秀層」として確保してきた大阪医大としては、国立併願者の受験数を増やす必要があり、それが前述のような「入試日の大幅前倒し」の決断に至ったと考えられる。

 

ほか、面接の詳細も相変わらず非公表である。大学側の説明では「予備校各社の調査を見ろ」とのことだが、調査の信用性は受験生の側で判断するしかない。逆に言えば、面接の詳細を公表している金沢医大などと異なり、大阪医大では面接の評価はたいして合否に影響しない、ということなのだろう。

関西医科大

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新校舎の造営などで、近年関西では大阪医大に迫る人気の関西医科大学だが、こちらも入試制度に大きな変更点はない。ただ、推薦入試では今年から提出書類として「医師不足に関する論文」が必要になる。推薦入試自体が医師不足対策の一環という趣旨によるものだが、本試験でも小論文が別に課される

 

また、関西医科大学の一般前期の合格最低点は、去年は400点満点中203点であり、一昨年とくらべて約30点も下がっている。これにつき大学側の説明では、「入試問題の難易度は例年並み」だが、受験者層のレベルに大きな違いはなかったのではないか、とのことだった。しかしこれについては後で検討してみたい。また、去年の入試では数学・物理が難しすぎるという指摘があり、対策を「検討するかもしれない」とのことである。

 

補欠については、去年度は166名だったが、入学者数など繰り上げの詳細については非公表。しかし正規合格者の最低ラインを3点下回っても入学した者がいる。前期補欠者には番号があり、前期合格発表時に通知されるのは例年通りである。

兵庫医科大

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去年から一般前期の出願期間を長くし、「国立との併願をしやすくした」という兵庫医科大だが、こちらも去年の入試では補欠の繰り上げ合格者が減少し、特にセンター利用入試では繰り上げ合格者はわずか2名となった。補欠合格ラインは約6割というが、去年の一般入試では受験者が100人程度増加している。大学側の説明では、「入試日が岩手医科大と離れたからかもしれない」とのことだったが、あるいは関西では兵庫医大の人気が上昇してきているのかもしれない。

また、推薦入試の出題範囲で、理科で単元ごとの制限がなくなる。兵庫医大においても、推薦入試も実質的に学力試験に近づいているといえるだろう。

川崎医科大

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出願がすべてウェブ化される以外に大きな変更点はなし。合格最低点自体は例年通り要項・ウェブで公開しているが、補欠合格についてはやはりほとんど非公開である。

【産業医科大】

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こちらは今年も紙媒体の出願を維持しているが、今後はウェブ出願に移行する可能性がある平成30年度入試から入試制度に変更が加えられる予定だが、今年は例年通りとのことである。去年度の補欠繰り上げ者は20名強だった。

医学部入試相談会リポートまとめ

各私大の入試制度は比較的安定しているようだが、去年の入試動向の中では(1)補欠の繰り上げ合格者の減少と(2)大阪医大の前期入試前倒しが目立った。

 

補欠の繰り上げ合格が減り、正規合格者の手続き率が各大学で上昇しているという事実は、いったい何を意味するのか。私大医学部に合格した生徒は、国公立を受験せず、そのまま入学する場合が増えている、ということである。このことは、「国立との併願者が多い」ということを売りにしてきた大阪医大でも顕著になっているのだろう。つまり、「私大医学部受験者はあまり国公立を併願しなかった」というのが去年の傾向であり、これにさすがの大阪医大も「飲み込まれた」と考えられるのである。

 

この傾向は去年だけの傾向といえるのか。はたして今年の入試もこれが続くのかが問題であるが、前期日程を1月まで繰り上げるという、なりふり構わない大阪医大の対応を見ると、これはここ数年来の傾向と考えられる。すなわち、医学部受験者層は、国公立大学「のみ」を受験する上位層と、私大医学部・私立医科大学「のみ」を受験する下位層に「二分化」していると考えられるのである。このことは、関西医科大で合格最低点が下降したことや、兵庫医大などで補欠の繰り上げ合格者が減少したという事実からも裏付けられる。

医学部は、一部私大で学費の切り下げが行われているものの、依然数千万円単位の費用がかかる。その一方で、特に勤務医の収入減少を指摘する声もあり、また、2030年ごろを境に医師は過剰になるという指摘もある。学費や卒業後のキャリアなどを考え、国立志望者の中には、多浪のリスクを冒しても国公立一本にしぼる受験生もおり、それが二分化の背景と考えられる。

 

医学部受験者層の二分化が続くとすると、国公立は難易度が上がる一方、私大医学部は難易度が下がることが考えられる。しかし、私大における補欠の繰り上げ合格者はこれまで以上に減少するかもしれない。京大・阪大など国公立の合格者が私立の大阪医大に入ることはないが、そもそも国立受験者が私大を受験しないのであれば、入学辞退者が出ることによる補欠の繰り上げ合格もないからである。補欠でどこか引っかかればよい、と安易に考えるのではなく、あくまで正規合格を目指さなければならないのだ。

 

また、国立志望の受験生が「滑り止め」として私大医学部を受験すると、全滅という手痛い結果をこうむる可能性も生じてくる。その点大阪医大は、明らかに京大など国立大を意識した問題傾向であり、国立志望者は特に大阪医大の対策などする必要はないかもしれないが、他の私大は、独自の問題傾向を持つところも多い。私大のみをねらうという受験生が増えてくると、「大は小を兼ねる」戦術で私大の併願先を選ぶのは危険である。私大は私大ごとに対策をしておき、できれば私大受験組は私大一本にしぼった方がよい、ということになるだろう。

 

医師や医学部をめぐる環境は、目に見えないようで確実に変化してきている。私大医学部ならどこでもいいと受けまくったり、大学の格にこだわったりするのではなく、学費や教育内容、卒業後の将来性などをよく検討した上で、自分に合った大学を受験することが大切である。

 

もちろん今回レポートした大学だけで全国の医学部受験動向を推し量るのは早計だが、私大は私大、国立は国立という二分化傾向には留意する必要がある。医学部への確実な合格のためには、2018年度の入試動向がどのようになるか、これから慎重に見極めていかなければならないのである。

※インフィア独自の調査に基づくものです。